「 のら猫物語 」  

        のら猫一家の暮らし

朝夕の風が涼しく、肌寒くもなったこの頃・・・。
キジかあちゃんは、時折 子猫達が安全な事を確認し、そっと抜け出し 一人の時間を 持つようになった。風呂上りに 海岸通りに出ると、キジかあちゃんがいた。私は、風が好きで寒い日でも 窓を開けていることが多い。中は暖房しているのに・・・あのシンとした感じの潮風が好きだ。寒い日以外は、風呂上りに 海岸通りに出て 風の香を楽しむことを日課としている。キジ母ちゃんが先にいる時もあれば、私が先のときもある。彼女は大抵が一人だった。
私の顔を見て「ニャオン」と挨拶をする「おったん?」私も挨拶をし 腰を降ろした。
彼女は、少し近づき 私の顔を見ながら ゆっくり腰を下ろした。会話もなく、シンとした空間の中、 互いに存在だけを確認しながら、過ごす短い時間。心地良い風・・・潮の香が気持ちよかった。

暫くして、私が腰を上げても まだ、彼女は居た。彼女はほんの少し後に 静かに腰を上げ、後について来た。途中で、「チビ」が気づき 二匹は背戸道で戯れた・・・一日のうちのほんの僅かなちゃあちゃんとの時間は、私にとっても心休まる時間だったように思う。その頃から「キジかあちゃん」を「ちゃあちゃん」と呼んでいた。「キジ」と言う発音が何とも言い難かったし「かあちゃん」と猫に対して呼べる勇気もなかった。(笑)

ちゃあちゃんは、不思議な猫で性格的には、温和で 実に物腰の柔らかな猫だった。
賢く、遠慮深く、優しさが体中から溢れていた。常に回りに警戒し、子供たち中心に動いていた、かと言って いつも甘える子を受け止めていたわけではなく、優しく受け止めたり・・・嫌がったり・・・実に、上手く子育てをこなしていた様に思えた。ただ、見知らぬ人や子供たちには、感情を顕にして「ハー」と威嚇するようにもなった。彼女の威嚇は「もこもこモコちゃん」や「ぶちこ」とは明らかに違う、心の奥底からの怒りのような・・・激しいものだった。自分の身を守る不安や恐怖心の混ざったものではなく、彼女の心の強さが表れる、本物の怒りだった。子供たちを抱えている彼女が見せるもうひとつの顔だった。

「黒かあちゃん」こと「くろこ」も母猫だったが、彼女の場合は、昼間は どんな時も姿を現わさず、親の元を離れて 遊び盛りの「ぶちこ」一人が、チビやモコモコもこちゃんと遊びにやって来ていた。「ぶちこ」は、牝猫で おとなしい子だったが ひっそりと生きている母猫の血を引いたのか、人の気配には 敏感に反応し、すぐに姿を隠す子猫だった。

この何ヶ月間の猫たちの様子で、私は外敵や危険から、身を守る為の唯一の方法が「ハー」だと知った。よく考えれば判るのだが、物事の表面しか見ることのない人間だったのかも知れない・・・と今更ながらに思った。
人は嫌いなものに対して、心の余裕など持てない。想像なんて 出来もしない・・・が、彼女たちの姿を毎日見ていると今まで、「ハー」と言う威嚇に対して 感情で見ていた自分が恥ずかしかった。

ある日、いつもの子供たちが 子猫を見に来た時に ちゃあちゃんはいつも見せる「ハー」をした。怖がる子供たちに、「意地悪されると思って、怒るふりをしてるだけ。本当は、怖いのよ」と伝えた。子供たちは、「怖くないよ〜」と少し距離をとったまま「子猫ちゃ〜ん、おいで〜♪」と呼んだ。ちゃあちゃんは、その言葉に優しさを感じたのか?もう二度と「ハー」をしなかった。
後日、その子たちが言うには、「ちゃあちゃんは、もう怖い顔をしなくなった。」とのことである。ただ、「離れて見るだけなら良いみたい。おいでって言っても来ん」との報告を受けた。

考えてみれば昼間は外敵ばかり・・・。車、意地悪そうな人たち、何をされるか判らない存在の犬・・・。自分の身は、自分たちが守らなければならない賢さを持つ猫は、昼間の間は、ジーっと陰を潜めているのだろう。幸い、ちゃあちゃんとチビの寝場所が 私が籠を置くことで隣の駐車場と我が家の背戸道にある 花を置いている棚に移ったことで、親子は、昼間も見ることが多くなっていた。彼女たちにしても、どちらを見ても安全な人間たちしか居ないから、のんびりと日向ぼっこを楽しめるわけだ。ただ、やはり昼間はずっと その場所からは動かずにいた。大抵、家族での行動は夜が多く この時ばかりは 自分たちの領域だと 言わんばかりにそこら辺を飛びまわっていた。

猫たちは、少し離れ見ていると 可愛いい盛りの「チビ」「モコモコもこちゃん」「ぶちこ」3匹は絡むように じゃれ合い、追っかけっこをし、親猫の「ちゃあちゃん」と「黒かあちゃん」は、子供たちを見守っていた。離れすぎると「ニャン」と呼び、じゃれて来ると「ニャオン」と体を舐め、長い時間、夜の散歩を楽しんでいた。少しずつ遊び場を変えて、環境でも教えているように…だんだんと 結構距離もあるほど、遊び場は広がっていった。

猫たちは、無邪気で愛らしく それまでの私の中の猫たちとは違う、感情を持った表情で毎日を過ごしていた。
興味、喜び、怒り、不安、彼らの表情で、少しずつ感情が読み取れるようになって来た・・・私は、夜中に見せる猫たちの世界に魅了されていた。莉りも時々参加し、ジーと固まるように見入っていた。もう誰一人として、私たちに、「ハー」をするものもなく、静かに静かに互いの存在を認めあいながら 同じ場所で同じ時間を過ごしていた。
私に懐かない、昼間は何処にいるのかさえも わからなかった ばあばあ猫たちも姿を現わし 家族?? の時間を楽しんでいた。「この闇が彼らの味方なんだ」と心の奥深くで、私は理解した。

私は何度か、捕まえて虫下し、ノミ対策のフロントラインを試みて見たかったが、今が一番大切な頃だと思い、我慢し時期を待っていた。触れなかった・・・怖さ半分だから、仕方なかった。

          チビの勇気

触れずに「しょぼん」としてた、何度めかの夜「チビ」がなんと!海岸通りから背戸道を走りぬけ、きびなごを持ってきて、猫たちの帰りを待つ 私の膝の上に「ニャン」と言いながら飛び乗ったのだ。「たたたたた・・・ピョン」である。「ドキッ」とした。あっ!! という間のことだった。すぐに、きびなごの入っている皿に下り、食べ始めた。「モコモコもこちゃん」も寄って来た、「ぶちこ」も、「ちゃあちゃん」も「黒かあちゃん」も、その日は「ばあばあ猫」まで来た。一家総出だった。

「チビ」が私の体に「スリスリ」をし甘えた、体を触るのが怖くて 一本の指で恐々 頭を撫でた「ニャオン」。ちゃあちゃん」は、我が子の勇気に誇らしげな顔だった。「良いよ〜♪」と言わんばかりの優しい顔をしていたし、「ニャン」と戒める時に発する、少し高い音の短い「ニャン」も 言わなかった。
初めて私の膝に自ら・・・私は、かなり!!ビックリしたらしく、心臓の高鳴りを 今も印象ある高鳴りとして覚えている。

帰ると莉りがクンクン匂った。「チビ」と一言教えた。莉りはその言葉だけで、クルクル回転を何度かした。相変わらずいい性格だ。「チビがなあ、ママに抱っこされたんよ」と教えた。莉りは「ワン」と大きな声で鳴き、「外に行く」と玄関に誘う。「まだ!」と戒め仕方なく、のら猫一家たちのいる反対側の道を選び、散歩をした。夏の間に、ノミがきっと付いてるだろう猫たちに、莉りを近づけるわけには行かなかった。歩きながら、さっきの出来事を思い出して「すごい!」と何度も思った。「チビ」の行動を凄いと感動していた。彼等は彼等で生き、私は私の暮らしがある。生き方は互いで違うけど・・・でも・・・なんだか同じ道を歩いている感覚・・・。何となく同じラインに居るような・・・何とも不思議な・・・良いのだろうか?とも思える複雑な感じだった。

人は、のら猫の暮らしには入っては 行けないだろうが、サポートは必要だ。少し感情導入しすぎているかな?とも思ったが、自分なりに少しづつ彼らに近寄ることを、今は目的にしなければ、虫下しも、フロントラインも出来ないのだから・・・。今日のことは良しとしよう・・・。私に甘えるチビの姿を思い出し、画像的に、初めて「抱いてみたい」と言う感情が、私の中に湧いたのは この日が最初だった。実際と想像は違うのは見えていたが、ここを超えたいと思った自分になったのは初めてだった。それにしてもチビは、何であんな行動をしたのだろう・・・認めたのかも、知れないな・・・
仲間になれたって?ことかな?・・・複雑・・・。

        抑えられない「この気持ち」

ちゃあちゃんは、この頃少し風邪気味だ。季節変わりの雨の日が続いた。隣の玄関で、じっと身体を寄せ合い 雨をしのいでいた事もある。どこで眠るのか・・・いつもの場所は濡れてるのか?じっと、同じ場所に寄り添うように居た。我慢が切れ、私は莉りの子パピの頃使ってた籠を用意し、中にタオルを置き 傘を持ち、のら猫一家に近づいた。

「くろこ」と「ぶちこ」親子は、さっと逃げ「モコモコもこちゃん」は「カ-」と威嚇した。「ちゃあちゃん」と「チビ」は「何?」見たいな顔をしていた。「寝んね」「ちゃあちゃん、ここで寝よ」私の言葉を聞きながら ちゃあちゃんは、ジ-と見ていた。

私は思い切って、チビを籠の中に入れた。そしてその場を離れた。家に戻り 窓から覗くと皆で入っていた。5匹は、それぞれ身体を舐め、チビは狭いのに、おっぱいを吸っていた。いつもはどこで眠っていたのだろう?「チビ」が私に慣れた頃から、昼間いつも居る、隣の家の玄関や駐車場に夜もいる事が多くなっていたが 今日は雨・・・ちゃあちゃんの風邪が気になって起こした行動・・・ヤバ過ぎる・・・朝見たらさぞ驚くだろう・・・。おばちゃんに、明日断っとこうと思った。

次の日、おばちゃんは「あ、そうな・・・」私は、外猫として飼おうと思っている事や、莉りに悪影響がないように 虫下しや、フロントラインのことを 話した。「まあ、そうな」とだけ 言った。去勢の事も 話した。「悪いなあ」と言った。やはり ちゃあちゃんの子だ、そう言う言葉が 適切だった。ただ、ちゃあちゃんは、私の手には 負えないだろう。手を出せば、瞬間移動をする事は目に見えていた。彼女は おばちゃんに任せようと思い、「ちゃあちゃんは、私には無理だと思うけど・・・、子猫は、どうにかなると思う」とだけ、伝えた。

「莉りが、気に入ってるし、仕方ない」と最後に付け加えた。おばちゃんと猫について話し合ったのは、これが最初で最後だ。私は子猫用のトイレも用意し、ご近所さんから 色々言われないように気をつけた。飼い主になれば自ずと、いろんなトラブルが耳に入ってくるかもしれない・・・。そんな事のない様に 細心の注意を払って行こうと覚悟を決めていた。

のら猫一家は、毎日のんびりと、暮らしていた。幸せそうな顔をして。
莉りは、のら猫一家を羨ましそうに眺め、「ク〜ン」と少し寂しげな声で鳴き、私に甘えていた。
「寂しい?」・・・私は莉りの顔を見ながら、「ミッキー」を思いだしていた。
家族を持たせてやりたかった・・・。幸せにしてやりたかった・・・。
彼の分も 私と言う人間が、莉りにとって唯一 信頼できる人間になれるようになりたいと思いながら、彼女を抱きしめていた。






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